5月26日…
特別な日だ。
母さんの命日とされているだ。
とはいえ、墓前でもその実感はない。
最後に魔物と戦った日が命日とされているからだ。
魔物との戦いで負けたらしいから、当然遺体や遺品が見つかるわけがない。
能力者の葬儀は密葬だ。それは世界結界のことを考えれば当然だ。
けど、当時4才の自分には分からないことだらけだった。
父は各地を回る仕事なので、ボクは能力者引退の身のじいちゃんに育てられた。ボクの能力を知ったじいちゃんが銀誓館学園への編入手続きをしてくれたらしい。
「符術に才があったのは、おぬしが母の血を受け継いだらかもしれぬな、朱夏」とじいちゃんには言われたことがある。でも、今のボクのレベルでは形見である2本の榊(さかき)は装備できない。それにボクの本業はファイヤフォックスだ。強いガンドリングガンには興味あるが、榊にはあまり興味がない
母の形見の榊は2本ある。
若き時代に使ってたものとボクが生まれてから新調したもの。
もう1つあるらしいけど、それは母の最後の装備品だったから現存してはいない。
ボクが能力者であるのは、能力者の母の血を受け継いだためとされているけど、実際能力に開花したのは小6の終わりだから、今の力が母のおかげとしても実感はない。
ほとんど流れ的に学園に来たようなものだったから、戦いとかに興味が沸かないまま1年を過ごした。
そんな生活をしていたから帰省して、じいちゃんに怒られた。「お前はそれでも晴子の子か!!」と。
あんなに怒ったじいちゃんは初めてだったな。
それからじいちゃんはボクを諭すように母さんの「対魔物のノート」を見せてくれた、思い出すように語りながら。
じいちゃんと母さんは能力者だったから、共に戦うこともよくあったらしいが、そういう話を詳しく聞くのも初めてだった。
そのノートには各魔物への対策等でびっちり埋められていた。
ボクが興味本位で入ってみたゴーストタウンの魔物についても詳細に書き込んでいた。
「なぜ、こんな形見をボクの見えないところに隠していたの?」とじいちゃんに聞いた。
「これはな、本来能力者として立派になった朱夏に渡すつもりじゃったがな、…今となっては資料として役には立たないものじゃが、ネットとかが発達してない時代は自分たちの情報が大きくてな、晴子は戦いの中で学んだことを、そこに書きとめていたのじゃな。
晴子は勉強家だったと1人前のお前に言うつもりじゃった。そこで何かを感じてくれると思って取っておいたのだが。
朱夏への指導に使うことになるとわな」
そう言うじいちゃんに返す言葉はなかった。
見慣れた母の字だけど、ここまで細かく大量に書かれた母の字は初めて見た。なかには字が乱れてよく読めない部分もあった。じいちゃんに聞くと、そういうのは戦いの合間に疾く書いていたものじゃということだった。
「このメモが後の世に役に立ちますように。また能力が開花するはずの朱夏の役に立ちますように。焦る必要はないわ、私自身能力者としてじゃ遅咲きでしたがここまでこれたのですから。今頑張るだけ、無理はしないでね」そうメモノートは結んであった。
その言葉は優しかった。
けど、母さんにも「やるべきことはやらないとダメでしょう、朱夏!」
と、母として、同じ能力者としても怒られている気がした。感動もした。
焦らずコツコツ…銀誓館なら可能だったことだ。
去年は自分を抑えすぎたせいかクラスにも馴染めなかった。
「今年は自分を出して出来ることをやってみるよ!」
とじいちゃんにこっちに帰る時に言った。今でもそんなメールのやりとりもしている。
意外かもしれないけどウチのじいちゃんはメールはもちろんパソコンやネットをボクより使う。
「これがないと戦友と連絡が取れない時代になってきたからな。手紙も暖かくて良い物だがあれは、住所が変わると大変なのでな」
と、笑うケド60過ぎでパソコンの使い手って時代を行ってるなぁ。
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母のノートは持ってきて大切にしているよ。たしかにゴーストカードで見たほうが詳しいけど、まだ見ぬ敵には、このノートが役に立つだろうし。
それと、じいちゃんが、
「朱夏が立派になったら晴子の日記もあるから…それも渡そう」
と言ってたから頑張らないと、自分のペースで。
じいちゃんの言う『一人前』っていう基準も分からないしね。
まぁ、去年より頑張ってみるよ。
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